2023年8月15日火曜日

荘園・寺社絵図の地物(滝・岩)探し

荘園絵図というものは…

荘園絵図集を見ていると、遠近感に違和感を感じたり、同一絵図内で描き方の向きが変わったり、特定のものを強調しすぎていたり。何だか良く分からないことが多いが、それには意図があって、なぜこんな風に描いているのかを考えることは意味があるらしい。

「絵図のコスモロジー(1987刊)」には、滋賀県大津市にある葛川明王院の鎌倉時代の絵図を例に、そんなことが書いてあった。絵図には秘所滝というのが強調して描かれているが、寺領を主張する際にぽっかり空いた山林の空間をいかにも大事な領域とするために、そこにあった滝を秘所滝として描いた過程が読み取れるらしく、絵図とは決して写実的ではなく、描いた側の都合に合わせたそういう物らしい。
もちろん自然の滝、川、岩などを曲げて描くことできず、そういう地物を利用してということみたいで、荘園絵図と現在の地物を現地比定して、色々と発掘もして史跡として保存しているところに骨寺村荘園遺跡というのが検索できる。

山王窟、不動窟といった岩屋や神社などが今も伝えられており、それらを起点に分かるらしく、荘園絵図に描かれた山、川、岩、滝が現在のどこになるのかを調べることは意味のあることらしい。

絵図の地物を比定する:小野山絵図「両岩」「雲心寺舊跡壇」

絵図のコスモロジーの神護寺絵図・高山寺絵図の作成過程の項に出てくる寛喜二年(1230)に寺領を示す目的で作成された神護寺領牓示絵図、高山寺寺領牓示絵図、主殿寮御領小野山与神護寺領堺相論絵図の絵図。
その中の小野山絵図には、「両岩」という地物がある。特徴的な岩の絵で、現地には見た目から明らかにこれだという大岩があって、絵図のコスモロジーではこの大岩を「両岩」に現地比定している。
小野山絵図「雲心寺舊跡壇」は雛壇状に4段と3段の平坦面が描かれている。実際に絵図と同じような地形が見つかり、令和4年度も調査がされているみたい。絵という直感的に分かるものをヒントに、山中でかつての遺構が見つかるというのはシンプルに面白い。

高山寺絵図の現地比定:「菩提瀧」「毗沙門瀧」

三幅の絵図の中で特にきれいなのが高山寺絵図。高山寺とその麓を流れる「清瀧川」とを中心に、背後の「栂尾高峯」などが描かれている。
「菩提瀧」は右端にやたらと大きく描かれている。今も菩提の滝というのがあるが、絵図のように大きな岩山から流れ落ちる滝ではなく、10ml強の沢の中腹にある滝。
高山寺絵図には文字だけ記載されている「毗沙門瀧」。今の毘沙門谷にある滝と思われ、中腹にある2つ滝のうちのどちらかと思われる。
三幅の絵図から現地比定されている小野山絵図「両岩」「雲心寺舊跡壇」、高山寺絵図「菩提瀧」「毗沙門瀧」などを書き足すとこんな感じ。

高山寺絵図:現地比定できていないもの

一方で「絵図のコスモロジー」、同様の書籍である「中世荘園絵図大成(1997刊)」で現地比定されていないものもある。高山寺絵図中の「沓石」「瀧尾離尾」「二子石」は岩・岩場を描いているが、書籍中では不明となっている。

現在も見た目が似た地物が山中にある可能性があり、推定される下図の点線の円周辺にて、「沓石」「瀧尾離尾」「二子石」があるのかもしれない。
参考資料
◇絵図のコスモロジー 上・下巻 葛川絵図研究会編
◇中世荘園絵図大成 河出書房新社
◇京都・愛宕山中の遺跡--雲心寺跡の発見 佛敎藝術學會編
◇京都中川の北山林業景観調査報告書
◇史料京都の歴史 京都市編
四至牓示から境界線へ
京都市内埋蔵文化財調査報告書(R4詳細分布調査報告)